第12章 Goodbye, and ...
気付いた時には、俺は壁も天井も真っ白に染められた部屋にいて、ギシギシと痛む身体には、所々白い布が巻かれていた。
「じゅ…は…?」
掠れた声に、ベッドの端にうつ伏せて転寝していた母ちゃんが飛び起きる。
そして俺の顔を覗き込むなり一言、
「もう、アンタって子は…何日寝りゃ気が済むのよ…」
声を震わせながら言うと、涙をポロリと一粒落とした。
それは多分俺が初めて見た、母ちゃんの涙だった。
俺の我儘のせいで、母ちゃんを泣かせてしまったと思ったら…心が傷んだ。
でもそれよりも俺が気になったのは、一緒に空を飛んだ潤のことだった。
「かぁ…ちゃ…、じゅ…んは…?」
俺の声が届いていないのか、コールボタンを押した母ちゃんは、スピーカーから聞こえてきた看護師に、俺の意識が戻ったことを伝えた。
「ね…ぇ…、じゅ…ん…はどこ…?」
ヒリヒリと痛む腕を伸ばして母ちゃんの服の袖を掴む。
でも母ちゃんはその手をそっと離して布団の中に戻すと、
「今先生が来てくれるからね?」
引き攣った笑いを浮かべて言った。
母ちゃんは知ってる…。
知ってて何かを隠してる…。
そう確信した俺は、痛む身体を無理矢理起こして、ベッドの下に足を下ろした。
「何してるの、まだ寝てないと…!」
制止する母ちゃんの腕を振り切り、床に下ろした足に力をこめる。
けど、どうしても一歩を踏み出すことが出来ず、俺はその場に倒れ込んだ。
「ほら、だからまだ寝てなさいって…」
抱き起こそうとした母ちゃんの手を振り払い、床を這うようにして病室の入口を目指すけど、腕に刺さった管がそれを阻む。
「ねぇ…、潤は…? 潤はどこにいんの? 無事なんだよな? ねぇ、母ちゃん…」
何度問いかけても俺の欲しい答えが返ってこないことに、途轍もない不安が押し寄せる。
「潤に会わせてよ…、お願いだからっ…」
不安はやがて嗚咽となって俺の意識を再び奪っていった。