第12章 Goodbye, and ...
俺は鼻をズッと鳴らすと、ベンチに置きっ放しにしてあったそ大き目のボストンバッグを手に取った。
母ちゃんがパンパンに詰めた重いバッグを肩に担ぎ、一歩を踏み出そうとした時、背後で砂利を踏むような音がして、俺の背中がフワッと暖かい物で包まれ、肩から滑り落ちたボストンバッグは地面にドサリと音を立てて落ちた。
「もう…、なんで智が泣いてんの?」
背中から回された腕が俺を強く抱き竦め、肩口に顔を埋めた潤の熱い吐息が俺の首筋を擽る。
「そ、そんなの…、俺にだって分かんねぇよ…」
ただ理由(わけ)もなく涙が次から次へと溢れて、止まんないんだ。
「智って、ホント泣き虫だね?」
「う、うっせぇ…」
以前と同じように俺を揶揄う口調が嬉しくて、咄嗟に振り向いた瞬間、不意に絡む視線と、むくれた俺の頬を摘む潤の指。
きっと笑ってる…って、そう思ってた。
なのにすぐ真近にあった顔は真剣そのもので…
「潤…?」
俺が見上げると、その表情は更に真剣な物へと変わった。
「キス、していい?」
これで最後にするから…
そう言って頬を摘んだ手を顎へと滑らせる。
勿論、俺にそれを拒む理由なんてどこにもなくて…
「…うん」
コクリと頷いて返すと、潤の顔がほんの僅かに綻び、ゆっくりと詰めた距離が無くなった時、俺の唇に潤の震える唇が重なった。
でもそれはほんの一瞬のことで…
一瞬ピタッとくっついたかと思った唇が離れた途端、俺達はお互いの赤くなった顔を見合わせて吹き出した。
「智、顔真っ赤(笑)」
「お、お前だって…。大体、こんな真昼間の公園で、男同士でキ、キスなんて…、誰か知り合いにでも見られたら…」
「間違いなく明日から俺達、揃って変態扱いだよね」
「ホントだよ…」
もっとも、明日から俺はこの町にはいないけど…
こんな風に笑い合えるのは、今日で最後だから…