• テキストサイズ

踊り子【気象系BL】

第12章 Goodbye, and ...


「あ、そうだ…」

短い握手の後、ゆっくりと手を解いた潤は、俺の頭からキャップを取り上げると、それを自分の頭に被せた。

「いつか智がビッグになった時、プレミア付くかも知んないから、記念に貰っとくね?」

ついでにサインでも貰っとくか…、なんておどけながら…

「ば、ばかか…、ンなもんに価値なんて出ねぇよ…」

大体からして、J's companyに行ったからって、俺がビッグになれるって決まったわけじゃないし、そもそもデビュー出来る保証だってどこにもありはしないのに…

ダンサーを夢見る奴なんて、星の数ほどいるし、
なんなら俺よりもうんと見栄えも良くて、凄いテクニックを持った奴だって、五万といるんだから。

「じゃあ…、俺行くね?」

キャップを目深に被った潤が俺に背を向ける。

その背中が小刻みに震えてるのが分かって、俺はそこに手を伸ばすけど、結局指の先すらも触れられず…

遠ざかって行く背中に、虚しく宙をさまよった右手は、パタリと力なく膝の上に落ちた。

ちゃんと言わなきゃいけないのに…
俺の気持ち、ちゃんと伝えなきゃいけないのに…

このままじゃダメだ…

「潤! 俺さ…俺…」

潤の足が数メートル先でピタリと止まる。

「俺、待ってるから…。いつか同じステージに立てるのを…ずっと待ってるから…」

それがずっとずっと先の未来だって構わない、潤とまた踊れるなら…

「だからダンス辞めんなよな…」

どんな素晴らしいテクニックを持ったダンサーよりも、どんなに有名なダンサーよりも、俺が一緒に踊りたいって思えるのは、潤…お前だけだから…

潤、お前は俺が認めた唯一のダンサーなんだから…

だから、夢…諦めんなよ…

伝えたい言葉が涙になって溢れ出す。

俺は拭っても拭っても溢れて来る涙をどうすることも出来ず、静かに振り返った潤に背中を向けた。

傷付けたのは俺なのに…、な…
/ 426ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp