第12章 Goodbye, and ...
「あ、そうだ…」
短い握手の後、ゆっくりと手を解いた潤は、俺の頭からキャップを取り上げると、それを自分の頭に被せた。
「いつか智がビッグになった時、プレミア付くかも知んないから、記念に貰っとくね?」
ついでにサインでも貰っとくか…、なんておどけながら…
「ば、ばかか…、ンなもんに価値なんて出ねぇよ…」
大体からして、J's companyに行ったからって、俺がビッグになれるって決まったわけじゃないし、そもそもデビュー出来る保証だってどこにもありはしないのに…
ダンサーを夢見る奴なんて、星の数ほどいるし、
なんなら俺よりもうんと見栄えも良くて、凄いテクニックを持った奴だって、五万といるんだから。
「じゃあ…、俺行くね?」
キャップを目深に被った潤が俺に背を向ける。
その背中が小刻みに震えてるのが分かって、俺はそこに手を伸ばすけど、結局指の先すらも触れられず…
遠ざかって行く背中に、虚しく宙をさまよった右手は、パタリと力なく膝の上に落ちた。
ちゃんと言わなきゃいけないのに…
俺の気持ち、ちゃんと伝えなきゃいけないのに…
このままじゃダメだ…
「潤! 俺さ…俺…」
潤の足が数メートル先でピタリと止まる。
「俺、待ってるから…。いつか同じステージに立てるのを…ずっと待ってるから…」
それがずっとずっと先の未来だって構わない、潤とまた踊れるなら…
「だからダンス辞めんなよな…」
どんな素晴らしいテクニックを持ったダンサーよりも、どんなに有名なダンサーよりも、俺が一緒に踊りたいって思えるのは、潤…お前だけだから…
潤、お前は俺が認めた唯一のダンサーなんだから…
だから、夢…諦めんなよ…
伝えたい言葉が涙になって溢れ出す。
俺は拭っても拭っても溢れて来る涙をどうすることも出来ず、静かに振り返った潤に背中を向けた。
傷付けたのは俺なのに…、な…