第11章 First contact…
その電話は、いつも通り潤と公園でダンスの練習で汗を流し、帰宅した直後にかかってきた。
それも俺の携帯ではなく、家の電話に…
その時間親は仕事に出ていて留守だから、当然その電話は俺が受けることになった。
「もしもし…」
「あ、大野さんのお宅でしょうか? 私、J's companyの代表をしている錦織と申しますが…、智さんは…」
『J’s company』その名前には聞き覚えがあった。
J's companyって言ったら、数多くのダンサーを排出していることで有名な、所謂芸能事務所の類いだ。
そのJ's companyがどうして俺に…?
ダンスと音楽以外のことには全く疎い俺でも知ってる名前に、受話器を持つ手に自然と力が入った。
「俺…ですけど…」
「ああ、君が大野君かい。丁度良かった、実はね…」
J's companyの代表だと名乗る錦織さんの話によれば、将来有望なダンサーを発掘するため、動画投稿サイトを見ていたら、たまたま俺と潤がアップした動画に目が止まったらしく…
どんな手を使ったのかは知らないが、電話番号まで調べ上げた結果、俺に電話をかけて来たらしい。
「でね、もし良ければ一度会って話がしたいんだけど、どうかな?」
そう言われて、漸くスカウトの電話だと気付いた俺は、
「はあ…、でもあのもう一人の奴にも聞いてみないと…」
咄嗟に潤のことを思い浮かべた。
でも、俺の予想に反して返ってきたのは、俺が思った答えではなくて…
「いや、もう一人の彼には申し訳ないんだが、俺が興味あるのは大野君、君だけなんだ」
潤とワンセットが当たり前だと思っていた俺は、すぐに返事をすることが出来なかった。
だって動画投稿サイトにアップした動画には、当然のように潤も映っていた筈だし、それに潤は本気で将来ダンサーになることを夢見ていたから…
ただ踊ることが好きなだけで、将来のことなんて全くと言っていい程考えていない俺とは違うって…
もし仮に本当にスカウトだとしたら、俺じゃなくて潤を選ぶべきだって…