第11章 First contact…
土砂降りの雨の中、潤から突然の告白をされてから数ヶ月…
俺達は…いや、厳密に言うと、俺だけが未だ“お試し期間”から抜け出せずにいた。
潤のことは相変わらず好きだ。
でもそれは“友達”としてであって、それ以上…ましてやお試し期間とは言え、“恋人”って風にはどうしたって思えなかった。
それでも時折求められるキスだけは、何故だか拒むことが出来なかった。
寧ろ、触れただけで脳天が痺れるような、あのなんとも言えない感覚が忘れられなくて、潤からのキスをどこかで期待していたのかもしれない。
俺は怖かったんだ。
“友達”って枠の中から飛び出してしまったら、それまで築き上げた潤との関係が、それこそ天地をひっくり返したみたいに変わってしまうんじゃないか、って…
友達なんていらない…
友達なんて面倒臭いだけ…
ずっとそう思ってたのに、たった一人出来た友達を、”恋人”と認めてしまうことによって失くすことが、怖くて怖くて堪らなかった。
だからこそ俺は、そのたった一歩を踏み出すことがどうしても出来なかった。
自分の中で、潤が俺にとってどれだけ大きな存在なのか、どれだけ大切に思っているのか気付きながら、俺は胸の奥に小さく芽生え始めた、甘酸っぱいような、それでいてほろ苦いような感情から目を逸らし続けた。
潤はそんな俺の想いを理解してくれていたのか、俺が“お試し期間”を抜け出すことを急かしたりはしなかったし、俺の気持ちが潤の望む方向へと傾くのを、ただ黙って待っていた。
俺は潤のその気持ちに…、潤の優しさに甘えていたんだ。
仮に本当の意味での“恋人”になんてならなくても、潤が俺から離れて行く筈なんてない、って…
“友達”って言う都合の良い言葉の上に、俺は胡座をかいていたんだ。
俺のその先の人生も、そして俺達の関係すらも真っ向から変えてしまうような、あの一本の電話がかかって来るまでは…