第10章 Rainy kiss…
俺達はリュックを傘替わりに、雨宿りとばかりに近くのトンネルに駆け込んだ。
「天気予報では一日晴れだったのに…」
肩についた水滴を手で払い、雨空を見上げ松本が忌々しそうに言う。
「そう…なんだ? つか、天気予報なんて気にすんだな?」
「当たり前でしょ? 天気って意外と重要なんだから」
天気予報なんて気にしたこともない俺は、意外な拘りに鼻を鳴らす松本から受け取ったタオルで髪を拭い、リュックから取り出したペットボトルのキャップを捻った。
思いがけず走ったせいで、喉がカラカラに乾いていた。
「ねぇ、今更なんだけど、“智”って呼んでもいい?」
突然のことに、胸がドクンと跳ね上がり、手にしたペットボトルが滑り落ちそうになる。
なんだ…この感覚…
「…別に構わないけど?」
ズキンと痛いような…、初めて感じる胸の違和感に、若干の戸惑いを感じつつも、俺は小さく頷いた。
「マジで? あ、じゃあさ、俺のことも“潤”って呼んでよ。だってほら、俺らもう一年経つじゃん? そろそろ、“大野”と“松本”から進化しない?」
別に名前の呼び方なんてどうでもいいと思いつつも、確かに松本…いや、潤の言う通り、俺達がお互いを”友達”として認識するようになってからもう一年も経つのに、いつまでも名字で呼び合ってるのも、他人行儀な気はしないでもない。
尤も、最初っから他人なんだけど…
「つか、“もう一年”って、付き合ってるみたいな言い方やめれや(笑)」
ほんの軽い冗談、のつもりだった。
でも松本は顔を真っ赤に染め、俺が押し付けたタオルを両手でキュッと握り締めると、揶揄うように見上げた俺の視線から逃れるように、咄嗟に視線を逸らした。
えっ…、何…この状況…
俺、何か変なこと言った…か…?
気不味い…とはまた違う…、俺達の間に流れ始めた何とも微妙な空気に、俺は思わず視線を足元に落とした。