第10章 Rainy kiss…
暫くの間、お互い黙りこくったまま、徐々に強くなっていく雨足が地面に叩き付ける雨音を聞いていた。
でもそれにも流石に耐え切れなくなった俺は、松本…いや、潤に背を向けると、
「雨…止みそうもないから、今日は帰るわ…。じゃ、また…」
振り向くことなく右手を小さく振り、一歩を踏み出した。
でも、
「待って…」
「えっ…?」
声に振り向いた時には、俺の身体はもう潤の腕の中で…
「な、なんだよ…、離せって…」
「やだ…。離さない…」
腕の中で藻掻く俺を、更に強い力で潤が抱き竦める。
「好きなんだ…。智のことがずっと好きで…。好きで好きで堪んないんだ…」
それはあまりにも突然の告白だった。
今まで十数年生きてきて初めてのことに、しかも相手は同じ男だってことに、俺はどうしていいのか、どう答えていいのか分からず、ただ赤くなっているだろう顔を見られたくない一心で、潤の胸に埋めた顔をひたすら俯かせていた。
「あの…さ、それってその…なんつーか…、そう言う意味で言ってんのか?」
「そう…だけど? つか、それ以外他意味なんてある?」
それがまるで当然であるかのように平然とした口調に、俺の胸がまたズキンと痛んだ。
確かに他に意味なんて考えられないけどさ…、だけどさ…、でも俺…
「男…だぜ?」
潤も俺も、同じ男…。
そういう関係に偏見があるわけじゃない。
でもいざ自分が、ってなると…正直戸惑う。
「知ってる…よ?」
埋めた潤の胸から伝わって来る鼓動の速さに、潤が本気なんだってことが分かる。
「冗談…じゃないんだよな?」
潤も…だけど、俺の心臓もヤバい…
「うん。冗談でこんなこと言えないでしょ?」
「だよ…な…」
潤のことは嫌いじゃない。
“好きか嫌いか“と問われたら、間違いなく“好きだ”と答える。
でもそれはあくまで“友達として”であって、潤が言う“好き”とは明らかに異なる物だった。