第10章 Rainy kiss…
学校を出た俺は、どこに立ち寄ることもせず、真っ直ぐ家に帰った。
どうせ家に帰ったところで、学校をサボったことを咎める親は、仕事に出掛けていて二人共いない。
制服を脱ぐことなく、ベッドに寝転がった俺は、ヘッドフォンを耳に宛て、最近気に入ってる音楽をかけた。
決してポップではないが、グルーブ感の堪らない一曲だ。
俺はそっと瞼を閉じると、何度もリフレインされる曲に、創造の中で身体を動かした。
いつだってそうだ。
この曲にはどんな振りが合うだろうか…
どんな風に身体を動かしたら、この曲の世界観を表現できるだろうか…
そんなことを考えながら、想像の中で全ての振りが完成するまで、同じ工程を何度も何度も繰り返す…
俺にとっての至福の時間だった。
そうして完成が見えてきた頃になって、俺は漸く自分の思い描いたイメージを身体に覚えさせていった。
勿論、想像通りにいかない時だってある。
そんな時は、自分で納得がいくダンスが出来るようになるまで、練習を繰り返した。
その時間が俺にとって、自分自身を解放出来る唯一の時間だった。
家も学校も、俺にとっては退屈で窮屈で、何より居心地の良い場所ではなかったから…
そう言えばアイツ…松本潤とか言ってたっけ…
アイツもダンスやってるって言ってたけど、どんなダンスなんだろう…
ハッキリとは覚えてないけど、見た感じ目鼻立ちのクッキリとした顔立ちだったから、ヒップホップって感じでもねぇし…、となるとジャズとか…?
それとも有り得ねぇけど、バレエとか…?
R&Bやレゲエっぽいのもアリっちゃアリなのか…?
そんなことをボンヤリ考えながら、俺は自分が笑っていることに気が付いた。
それまで他人のことには一切興味を持てなかった俺が、どうして松本潤に関してだけは、こんなにも興味を引かれるのか…、自分自身不思議で仕方がなかった。