第10章 Rainy kiss…
躍るのは嫌いじゃなかった。
寧ろ、溢れるリズムに、一心不乱に身を任せているのが好きだった。
何も考えなくていいから…
動画を無料動画サイトに投稿したのも、別に誰かに見て欲しかったわけでも、ましてや有名になりたいとかじゃなくて、深い意味なんてなかった。
でもまさか同じ学校の奴に見つかるとは…
しかも同じクラスって…
考えてもなかった。
「悪ぃ、俺そういうの興味ないから」
昔から人と何かをするのは好きじゃない、というか苦手だ。
お互いの顔色を窺い、腹の底を探り合うような…そんな関係が億劫で仕方なかった。
だから本当は誰よりも寂しがり屋で、一人でいることが何よりも嫌いなのに、俺は自ら分厚い壁を作り、誰一人として俺のテリトリーには立ち入らないよう、厚い殻の中に閉じこもった、…つもりだったのに…
松本潤は、その中へと足を踏み入れようとしている。
これ以上は許しちゃ駄目だ。
頭の中で鳴り響く警鐘…
俺は机に伏せていた顔を上げると、椅子を蹴倒す勢いで席を立ち、机の横にかけてあった鞄を掴んだ。
「悪ぃけど俺はゴメンだ。そんなに踊りたきゃ、他当ってくれ」
今時素人でも、とんでもなく高いダンススキルを持った奴らが、そこら中にゴロゴロしてる。
何もわざわざ素人に毛が生えた程度のスキルしか持たない俺に、そこまで拘る必要なんてない。
「分かった。でも一度でいいから、見に来てくんないかな? 堤防沿いに公園あるでしょ? そこで待ってるから…」
教室を出ようとした俺を追いかけ、尚も食い下がる松本潤に、
「暇だったらな…」
心にもない言葉を吐き、俺は残り数時間の授業を終えることなく教室を出た。
図々しい上に、随分と身勝手な奴…
それがその時俺が持った、松本潤に対する印象だった。