第9章 For You…
とは言ったものの…
会場になっているホテルに着いてすぐ、俺は滅多に発動されることのない我儘な自分の発言に、深く後悔した。
パーティ会場にいたのは、どいつもどこぞの会社のお偉いさんだったり…所謂、俺とは住む世界の違うセレブな奴らばかりで…
翔に無理矢理押し付けられたスーツを着ていても、場違い感は半端ない。
「マジか…」
ポツリ呟いた俺の声を、翔が聞き逃すわけもなく…
「じゃあ帰るか? 尤も…俺はまだ挨拶もしなきゃなんねぇし、親父の顔に泥塗るわけにもいかねぇから残るが…」
いつもは殆ど見せることのない、御曹司としての顔を崩すことなく…、でも俺の手を強く握ったまま言った。
「あ。それともう1つ…。親父が俺達のために部屋抑えてくれたらしいけど…、お前先に帰るならキャンセルしとかないとな…」
「えっ…、そう…なの…?」
あの親父さんが…、俺達のために…
「ま、“俺達”と言うよりは、お前のためだろうな…」
「俺…? なんで…」
翔の親父さんが、俺だっての関係を暖かく見守ってくれてるのは、俺も知っていたし、俺のことだって…
「俺が思うに、“ご褒美”のつもりだろ? “よく出来ました”ってやつだ(笑)」
なんだそれ…
でも仮に翔の言う通りだとして…、やっぱりそれとこれとは話が別だ。
俺はダンサーとして…、認めたくはねぇがNO.1ストリッパーとして、その責任を果たしたまで。
だだ…褒められんのも、ご褒美も…、理由はどうあれ嬉しいもので…
それを受けないってのは、勿体無い話で…
「どうする? 断るか?」
そんなこと聞かれなくたって、答えは一つしかない。
そうだろ、翔?
「折角の申し出だ、有難く受けようぜ(笑) 親父さんに感謝しねぇとな?」
俺は翔の手を握り返し、視線の先で招待客と談笑する親父さんの元へと駆け寄った。