第9章 For You…
「と、兎に角、この劇場にとってお前は必要不可欠な存在だ、ってことだ」
俺にとってもな…
耳に寄せた唇に、とんでもなく甘さを含んだ低い声で囁かれたら…それだけで身体が熱くなる。
「なあ、俺がずっと何を考えて踊ってたか…教えてやろうか?」
翔の首に腕を絡め、未だ涙の跡が乾ききらない目に、ほんの少しの色香を乗せて翔を見上げる。
すると翔は当然とばかりに、
「俺のことだろ?」
自信満々に鼻を鳴らした。
どんだけ自信過剰なんだよ(笑)
でも…満更間違ってないから笑える。
何故なら、俺がステージの上でずっと考えてたのは、他でもない、俺を抱く翔の腕、逞しい胸板、そして俺だけに向けられるその熱い眼差し…、翔のこと以外、何も考えられなかった。
「翔…、早く帰ろうぜ? 今俺、すげぇセックスしたい気分なんだ…」
身体の奥に燻り始めた小さな欲の炎が、チリチリと音を立てる。
こんなにも強く誰かを求めたことが、今までにあっただろうか…
「俺着替えてくっからさ…、だから…」
翔の首に絡めた腕を解き、期待を込めた目で翔を見上げる。
でも翔は”うん”とは言わず、それどころか
「悪いが、それは無理だな…」
険しい顔で首を横に振った。
「な、なんでだよ…?」
壁の時計を見れば、時刻はもう五時を過ぎようとしている。
「これから場所をホテルに変えて、親父が主催のレセプションパーティーが開かれることになってる」
「そんな話聞いてねぇし…」
「俺も今日親父に言われたんだ。正直面倒だし、俺だって出来ればお前と…。でもそうも言ってらんねぇんだわ…」
立場上断れない、ってことか…
それも親父さんが、翔のために開いてくれるってなれば…尚更か…
でもな、翔…
俺だってたまには我儘言いたくなる時があんだぜ?
例えば、
「なあ、そのパーティとやら、俺も同席したら…まずいのか? …つか、俺も行きたい」
こんな風にな?