第9章 For You…
ダンサーとしてステージに立てないのであれば、もうここに俺の居場所はない。
諦めにも似た感情のままドアノブに手をかけた、丁度その時、
「ちょっと待て…、さっきから黙って聞いてりゃ…お前何勘違いしてんだ…」
翔の、僅かに怒気を含んだ声が俺の足を引き止めた。
「俺は別に勘違いなんて…」
肩を落とす俺の背中に、コツ…コツと、聞き慣れた足音が近付いてくる。
そして足音が止まった瞬間、俺の身体は翔の腕に包まれていた。
「離せ…よ…」
「やだね、離さない…」
「離せって…。もう俺は必要ないんだろ? だったら…」
えっ…?
肩越しに振り返った俺の唇に、翔の柔らかな唇が重なった。
どう…して…
触れただけの唇はすぐに離れ、代わりに翔の手が俺の頬を包み込む。
「…ったく、どこをどう解釈したら“必要ない”になんだよ…」
「だってそれは…」
俺をステージに立たせたくない、って…、そう言ったのは翔…お前じゃねぇか…
「あんなぁ…、いいか一度しか言わねぇから、良く聞け?」
聞きたくない…
出来ることな耳を塞いでしまいたい…、そんな衝動に駆られる俺を、首筋や耳元にかかる翔の熱い吐息をが、それを許さない。
「お前をステージに立たせたくない、って言ったのは、お前のあんな姿を、誰にも見せたくないと思ったから…。誰の目にも触れないよう、ずっとこの腕の中に閉じ込めておきたい、って…そう思ったからだ」
普段決して口にすることのない、翔の胸の奥底に秘めた独占欲…
俺は翔の腕の中で身体の向きを変えると、涙で滲んだ目で翔を睨め上げた。
「だったらそう言えば…」
言ってくれれば、俺だってこんな勘違いしなくて済んだのに…
「バ、バカか…、言える訳ねぇだろ…、ンな恥ずいこと…」
そう言って俺の視線から逸らした翔の顔は…
今まで見たことないくらい、耳まで真っ赤に染まっていた。