第9章 For You…
そしていよいよ曲がクライマックスに近付き、俺はゆっくりと立ち上がると、真っ直ぐに正面を向き、右手だけを前に伸ばした。
その時、ほんの一瞬…だけど、客席の中央に座する翔の姿が目に入って来た。
翔は食い入るような目で俺を見つめ、やがて俺の視線に気付くと、微かに頬の筋肉を和らげた。
翔が見ている…。
それだけで身体が熱くなる。
まるで翔の逞しい腕に抱かれているかのような…、そんな気さえする。
見てくれよ…
もっと俺を…、例えこのまま燃え尽きちまっても構わねぇから、燃えるような視線で俺を射抜いてくれ…
その視線で俺を頂へと導いてくれ…
俺はクルリと身を翻すと、客席に背を向けた。
そしてステージ上に唯一置かれた椅子に、背凭れを抱くように座り、長い黒髪が渦を巻く床に着いた爪先をツンと立て、憂いを帯びた目で肩越しに客席を返り見た。
ピンと反り勃った中心を絶頂へと導くように、背中を波打たせながら、添えた手を上下に動かす。
赤く染めた唇をキュッと噛み、今にも零れそうになる喘ぎを噛み殺した。
固く張り詰めた中心の先から、雫が溢れ出し、俺の手を濡らして行く。
やべ…、イキ…そ…
これまで何度もこのステージに立って来たけど、こんなに心も、そして身体も震えるのは、もしかしたら初めてかもしれないな…
きっと翔が見てるから…
俺だけを見てくれてるから…
俺は中心に添えた手を解き、片手を下に、もう一方を上へと伸ばし、その反動を利用して身体を後ろへと倒した。
その瞬間、それまでステージ上に溢れていた音が止み、俺の腹を熱い物が濡らした。
終わった…のか…?
水を打ったようにシンと静まり返った客席。
奈落の底へと沈んで行く俺…
徐々に遠ざかって行く意識の中、俺が耳にしたのは、割れんばかりの拍手と、賞賛を込めた歓声だった。