第9章 For You…
目の前にいる客が、オナニー目的でここに来ているわけではないことは、その出で立ちを見ただけで分かる。
翔は本気で気を遣る必要はないと言ったが、それじゃ意味がねぇ。
業界のお偉いさんだろうが、工事業者だろうが関係ねぇ…
俺は俺の本気のステージを見せるだけだ。
俺は片手で身体を支えるようにして尻を浮かせ、中心を覆い隠した手を動かしながら、腰を上下に揺らした。
次第に高まって行く熱が、硬さとなって俺の手を押し上げる。
俺は床に着いた支えを外し、板の上に寝そべると背中を反らせ、立てた片膝に足を絡め、天を向き始めた中心をチラチラと見せつけるように、足を組み替える。
そして再び曲が転調するのを計ったように、回転を始めたステージ。
俺は組んでいた足を解き、股の間にあった手をヒラヒラと振りながら、立てた膝の上に置き、それまで閉じていた両足を開いた。
完全に露になった中心が、大衆の前に晒される。
するとどこからか溜息なのか、それとも別の何かなのか…、息を漏らす音が聞こえた。
結局同じだ。
どんなに高価なスーツを着ていても、どんなに高級な腕時計をしていても…、そして本来は女しか愛せなくても、結局人間なんて生き物は欲には勝てないんだ。
現に野郎の裸を見せられても、誰一人として席を立とうとする奴はいない。
それどころか、この先にある甘美な刺激に、目を輝かせてやがる。
ならば俺はその期待に応えるまでだ。
俺はゆっくり上体を起こすと、長い黒髪がまとわり付いた肩から胸にかけて手を滑らせ、女とは違う膨らみを持たないそこを撫で回した。
ツンと固くなった胸の先を手のひらが掠める度、電流計が走るように身体が震え、
「あっ…はぁ…っ…」
俺は無意識のうちに微かな喘ぎを漏らしていた。
尤も、俺がどれだけ激しく喘ごうと、全ては音楽に掻き消され、客席に届くことはないだろうけど…