第8章 理解が困難なアイツと私
「……ジャン、起きて。」
「ん……。」
目を閉じたままで、顔だけをしかめるジャン。
私はそのまま、トントン。肩を叩く。
「ジャン。ホラ、朝だよ。」
「ん。」
こくこく。揺れていた頭が、一際大きく動いた後。
ピタリ。その動きを止める。
不思議に思って見つめていると、ゆっくり、頭が起き上がってきて。
「……起きた?」
覗き込むように。
様子を見るようにその顔を伺った。
瞬間。
ちゅ。
唇に触れた熱。
柔らかく、甘く。
視界いっぱいに、ぼんやりとジャンの顔。
……また、やられてしまった。
不意打ち過ぎて何も言えない私に「目くらい閉じろよ」と呟いたジャン。
その笑顔はもう、いつものイジワルなものだった。
背中に回っていたジャンの手が、やっとモゾモゾ動いて。
サラリ。
頭を一度撫でられて。
やっと解放してくれた。
「ンー」と一つ、大きな伸びをして。
もう一度、私に向き直り、頭に手を乗せて。
「起こしてくれてありがとな。じゃ、あとで。」
そう言って、ベッドで身体だけ起こしていた状態の私に背を向ける。
その背中を見ながら、思考をまとめようと、試みた。
……昨日は、
手ぇ出してこなかった。
キスだって、今寝ぼけてしたみたいに、あれだけ。
ただ、隣で眠った。
それだけ。
これはもう、“終わった”と思っても、いいってこと?
解放してくれる、ってこと?
……だとしたら、ありがたい、事なんだけど。
キッチリ、言葉に出してもらった方が、安心感が高い。
「ま、待って!」
……しまった。
思わず、引き止めてしまった。
「ん?」と、どうした?とでも言いたげなジャンが、振り返る。
「あ、あの、えっと……。」
しどろもどろになりながら、なんとかジャンの口から“終わり”を意味する言葉が引き出せないか考えた。
が、そんなに都合よく言葉が転がっているわけがなく。
何かを言おうとして口は開くものの、次の台詞が出て来ない私に、ジャンはフワリと笑った。
「……面白れぇやつだな、お前。」
「え?」