第8章 理解が困難なアイツと私
何の裏もない、そんな笑い方、だった。
呆気に取られる私に歩み寄って、ポン。と頭に手を置く。
「解散が早かったら、今日も来る。」
「え、ちょっと……。」
それって、どういう意味?
飽きたから、解放してくれるんじゃ、ないの?
そう続けようとした私の声は、ジャンの声で、止められた。
「昨日出来なかったし、今日はいっぱいしよう、な?」
……あぁ、この、顔は。
悪魔の微笑み、だ。
引き攣る私を置いて、ジャンは部屋から出て行った。
凍り付いたように、その場から動けなかった私の頭の中は、ぐるぐると、同じ言葉が回る。
もう、逃げられない……?
ぶんぶん。と頭を振って。
その考えを追い出そうと必死になった。
……大丈夫。
ミカサの事が、好きで好きで堪らないジャンの事だ。
どうせ、すぐに飽きる。
飽きて、すぐに解放してくれる、はず。
それは希望的観測すぎて、アテにはならない。
ただの、私の願望、でしかないんだけれど。
そう考えでもしないと、冷静になれそうになかった。
何を考えているのかは、分からないけど、主導権がジャンにある以上。
私に出来るのは、隙を見て……
その、主導権を奪い返す事。
か、あるいは、早く、ジャンに飽きてもらう事。
……憂鬱過ぎて、大きな溜息が出る。
いつの間にか、私は明らかな負け戦さに乗り出してしまっていた。