第8章 理解が困難なアイツと私
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空には夕焼けが広がり。
班長に頼まれて、次回の壁外調査で乗る馬の様子を見ていたら。
遠目から、こちらに向かって、歩いてくるジャンが見えた。
気付かれないようにコソコソと、馬小屋の奥へ逃げ込もうとする私の心境を、微塵も知らないヤツは、まるで「逃がさない」とでも言うように。
さも当然かのように。
普通だとばかりに、聞いてきた。
「今日はどうする?」
「どうもこうもしないわよ。寝る。」
口から出したのは、キッパリとしたお断りの言葉。
よし。
私は断った。
酔っ払ってないから、もうその手には乗らないぞ。
と、意気込みつつ、馬小屋を見渡す。
あ。あっちにいる馬の餌、少ないな。
補充しておかなきゃ。
なんて考えていたのも束の間、強く肩を引かれ、身体が180度スピンした。
……かと思うと、目の前には夕陽の逆光に照らされる、ジャンの姿。
胡散臭いくらい爽やかな笑顔に、もはや嫌な予感しか、しない。
「じゃ。終わったら飯持って行くから。」
ちょっと待て。
だからね、何で決定口調なわけ?!
ジャンのマイペースっぷりには閉口してしまう。
眉を寄せる私とは全く対照的に、柔らかく笑うこの男。
普通なら、「優しそうな人ね」と言われてもおかしくはない表情だろう。
少なくとも、悪い印象なんて与える事は、ないと思う。
が、私にとっては、その笑みが、何よりも胡散臭くて恐ろしく感じる。
また、あの悪魔の餌食になってしまう……
そんな予感。
そして、それはきっと、外れてはくれない、予感だ。