第7章 ワナにハマった俺のせい?
「コップはどっちがいい?」
振り向いた美咲が手に持っていたのは、柄が違う、大きさも違うもので。
食道にあるような安っぽいものでも、なんでもない。
「なんだそれ?選べんのか?スゲェな。」
兵舎暮らしの同期の部屋で、まさかこんなモノがあるなんて、あんまりねぇだろ。
本当に、なんの裏もなく言った俺の言葉に、美咲は悲しそうに笑った。
「……お母さんが趣味で集めてたから。」
そう言って、また袋の中身に向き直る。
あ……確か美咲は、ウォール・マリアから来たんだったな。
悪い事を聞いちまったか?
……多分、あれは、形見だ。
コイツの、過去に置き去りになってる、思い出の品だ。
少しだけ思案して、陶器のようなコップを選ぶ。
手渡されたそれは、深い青が印象的な、珍しいモノで。
「……へぇ。綺麗なモンだな。」
滑らかな手触りと、単色だが、済んだ色が綺麗で、自然と口から溢れた。
「でしょ?」
一人分のパンと自分用のコップを持ち、美咲はそう言って柔らかく笑った。
彼女が手にしているコップはカラフルなドット柄なガラス製品で、コップというより、グラスという表現の方が近い。
殺風景なこの部屋で存在感を放つそれが、よく映えていて。
コイツの両親っていい趣味だったんだな。なんて思いながら、浅く笑うと、美咲と目があった。
「……何笑ってんの?」
「別にー。」
訝しげな顔を見せる美咲に答えて、俺は手渡された青に口を付けた。
普段、何気なく飲んでいるただの水が、何故か滑らかな感じで、喉を通る。
……あ。
入れモンが違うだけで、味って変わるんだな。