第1章 ※それは月夜の酔いのせい?
我ながら、卑怯で情けない、と思う。
ある意味、誘導するように転がり込んだ宿で。
自分でも、説明が出来ない感情が渦巻いて、衝動的に手が出そうになるのを必死に耐えて。
コクリ、コクリ、頭が揺れる美咲を引き寄せたくて、でも出来なくて。
自問自答を繰り返して、さっきの店の店主から貰った、初めての酒を喉に流し込んで。
俺はこんなに葛藤して、一歩踏み出すのも戸惑われていると言うのに、隣の美咲が何も感じていないのがまた歯がゆくて。
飲み慣れない酒に呑まれる前に、いつの間にか、美咲の空気に飲み込まれていたようだ。
コクリ、時折揺れる彼女の頭に合わせて、フワフワくすぐる髪の隙間に、指を滑り込ませたくなる衝動とひたすら戦っていたとき。
「セックスってした事あるー?」
なんて、美咲が突然、とんでもない事を言うから。
心地良かった酔いも一気に冷めた。
「は?!何でだよ?」
「べーつーにー。ただ、女の子は痛いって聞くし、あれって気持ちいいの、男だけだよねぇ。」
「……お前、は、ヤッた事、あるのか?」
「なぁ〜い。」
その言葉に、必死に戦っていた俺の理性が、バチン。と弾けた気がした。
俺の気も知らず、隣で平気な顔して空になった酒瓶をプラプラさせて、酔っ払っているコイツを、どうにかして俺の方に向かせたくて……
最低の手段に出る事に、した。