第6章 別人なアイツに捕らわれた私
「ちょ、!?」
引き寄せたられた身体。
ジャンはキツく抱き締めると同時に、すりすりと髪に顔を埋め、まるで、縋るように、キツく抱き締めている腕に、力を込める。
何だかその仕草に、ドキドキと止まらなくなる鼓動。
「…悪い。」
今度は急に距離を取ったと思ったら、はにかむように笑った。
「まぁ。味気ねぇけど、腹減ったし。飯食うか。」
何もなかったように。
落ちた袋を拾うジャン。
何でさっき抱き締めて来たの?
その前……何で小さい声で、私の名前を呼んだの?
ジャンはもう、いつも通りに戻っていて、聞きそびれてしまった。
ジャンが食料袋から出して来たのは一つのパン。
「……?何で一人一個じゃないの?」
「誰かと同じモン食った方が、美味いだろ。」
疑問で返すと、聞き覚えがあるような言葉で。
確か、ヒストリアと部屋で御飯食べる時は、いっつも半分個しながら、ちょっとずつ食べてたんだっけ。
なんて、思い出していた。
つい、この前にも思えるけど、いなくなるのはやっぱり寂しくて。
まさか彼女とは似ても似つかいジャンの口から、そんな言葉が出るのがおかしくて。
私は、フ。と、笑った。
「それもそうだね。」
ジャンから半分のパンを受け取り、思い切り口に含む。
お腹が空いているのと、いつもは一人ぼっちの部屋で、しんみりしながら御飯食べてたから、少しだけやっぱり美味しく思えた。
ジャンも中々良いこと言うやつなんだなぁ。
訓練兵の時から胡散臭そうな雰囲気があったし、自己主張が強過ぎてあんまり関わらないようにしてたんだけど。
本当はいいヤツなのかも知れない。
変に避けちゃって、ろくに話す事なく調査兵団に入団したけど、今後は普通にやっていけそうな気がする。
……って言うか。
やっぱり、朝食抜きはマズかったかな。
お腹空いた。
私が二つ目のパンに手を伸ばそうとしていると、不機嫌そうなジャンの声が聞こえた。
「……で、美咲。」
「ん?」
二つ目のパンも半分に千切り、ジャンはまだ食べ掛けだったから、パン袋に直す。
ジャンの方を振り返ると、優しそうに笑っていた。