第6章 別人なアイツに捕らわれた私
「お前。俺が今ここにいる意味、忘れてるだろ。」
「へ?」
ジャンがここにいる意味?
御飯と飲み物持って来てくれたし、一緒に食べるとか?
そりゃぁ、ジャンも一人ぼっちの部屋で御飯は寂しいよね。
って言うか、飲み物の存在思い出したら、急に喉乾いて来ちゃった。
袋の中からお水を取り出し、一口飲むと。パサパサしていたパンが喉を通って気持ちがいい。
って言うか、ジャンはまだパン食べてないの?
少しは食べればいいのに。
……とジャンが座っている隣を見たら、既に私を凝視している彼と目が合った。
え?
何こいつ。
いつから見てたわけ?
「……何まじまじと見てんの。気持ち悪。」
つい、思った事が、口から出てしまった。
そんな私に一瞬驚いたジャンが、また今度は意地悪く笑う。
そこで、ハッと気が付いた。
そうだった、今日ここにジャンがいるのは、こんなホンワカムードでパンを頬張る為じゃない事に。
……あの夜の、失態を、なんとか闇に葬り去ってもらう、ためだ。
「お前、マジで忘れてただろ。スゲェ女。」
「わ、悪かったわね!お腹空いてたんだもん!!」
心底呆れたような顔をするジャンに反論。
朝食も逃したし、帰ってきたばっかりだし、それから大好きなパン。
魅力的すぎるのよ、この図。
「ま、いっか。お前がそれほど気にしちゃいねぇんなら、別に話す事もねぇし。」
「ちょっ、それは困る!ちゃんと話してよ!?」
「それが、人に物を頼む態度で、いいんだな?」
ぐ。と喉が詰まった。
勢いを殺され、私は口をつぐむしかない。
ジャンはやっぱり、悪魔みたいな笑顔を浮かべている。