第6章 別人なアイツに捕らわれた私
ひとつ、大きく深呼吸して。
正面にいるサシャにチラリと目をやる。
相変わらず、幸せそうにパンを頬張る姿。
なんだか、和むなぁ……
そんなに美味しそうに食べられると、私もパン、食べたくなってきたな。
なんて呑気に思っていた私の隣に、まさかのまさか。
ヤツが腰を下ろした。
「つれねぇな。可愛かったのに。この前は。」
……イラッ。
ガヤガヤうるさい食堂の中。
小さく呟かれた声は、私に対するもので。
引き攣る頬を自覚しながら、湧き上がる苛立ちを抑え、私はジャンを無視する事に決めた。
いつものペースを取り戻しつつあったのに、パンを口に運ぶ手が、震えるのは仕方がない。
朝食さえ乗り切れば、特別に近い距離で何かするわけでもないんだし。
なのに、追撃するかのようなジャンの一言。
ヤツは、言ったのだ。
サシャの前に置かれた、飲み物を取る振りをして、私に。
耳元で。
「今日も、しよう。な、美咲。」
ガタン!
反射的に立ち上がってしまった事に、サシャがビックリして、パンを落としそうになっている。
「ご、ごめん……。」
小さく謝って、すとんと椅子に座り直す。
隣の男は、肩を震わせて、笑いを耐えている様子だ。
……コイツ、本当に信じらんない!
イライラし過ぎて、動揺し過ぎて、平静を保てない。
私は、体勢を立て直す為に、席を立った。