第1章 ※それは月夜の酔いのせい?
美咲の肩を下ろし、一旦便所に行き、勢いよく出た水で顔を洗う。
「何考えちまってんだ、俺は……」
そもそも、俺にはミカサと言う好意を寄せる女がいる訳で、美咲なんか……ただの同期に過ぎない。
深く深呼吸をし、頬を叩いた後。
便所を後にしてテーブルに戻ると、美咲の隣に腰を下ろしたリヴァイ兵長と、ガチガチに緊張しながら顔を真っ赤にして話す彼女の姿。
クソみたいにどうでもいい会話に、嬉しそうにしていて。
趣味を聞き合うって、見合いかよ。
ガキの頃に読んだ童話がどうだったとか、マジでどうでもいいだろ。
あー。
なんか、あの敬語にもムカつくな。
なんて思って、フと。
リヴァイ兵長が持っているグラスが目に止まった。
二人の間に、グラスは1つしかない。
……それ、美咲のやつ、じゃねぇよな?
リヴァイ兵長が一口、グラスの中身を飲む度に、更に赤色に染まる美咲の顔。
それが、さっき初めて見た美咲の上気する頬と重なって。
………………ソレは、俺のだろ?
ぶちん。と、乱暴に糸を切ったような音が、頭の中で聞こえた気がした。
それは、美咲と俺との間に繋がっていた、同期としての一線。
男女どうこう関係ない、曖昧な線。
それが、もう二度と結び直せないんじゃねぇかと思う程ズタズタに、千切れた。
代わりに、彼女へと伸びて行ったのは、……強い嫉妬と衝動を帯びた、淡い色。
同じ104期で入団してから、一度だって感じたことがない気持ちだった。
自分でも、どうしてこんな気持ちになるのかさっぱり分からねぇ。
ただ、美咲の隣で静かにグラスを持つ兵長と、火照った顔の彼女を見ていたら、胸の奥にチリチリとした焼け付くような苛立ちを感じたのは、事実だった。