第1章 ※それは月夜の酔いのせい?
美咲が俺に対して距離を置こうとしてるっつー事は、訓練兵の時から何となく気付いていた。
絶対に踏み込ませない。
美咲の着ている兵団服には、そう書かれていてもおかしくねぇような硬さ。
俺の方から、特別近付こうとも思わなかった。
美咲に固執する意味も理由もねぇし、そんな面倒な事に自ら足を突っ込む気もなかった。
このまま無難に「同期」として過ごしていくつもり、
だったのに。
それぞれの兵団に入ってゴタゴタが片付いた日。
飯に行こう、と、誘ったのは。
ほんのわずかな、好奇心。
久しぶりの兵団の休日を明日に控え。
調査兵団の面々での少しばかり大きな催し。
俺はいつも通り、死に急ぎ野郎と口論を始めた最中だった。
が、ふと、対角線上に美咲の姿を見つけた。
……見た事がねぇ、笑顔。
隣のコニーやサシャと楽しそうに話す美咲は、俺が知っている彼女とは別人で……。
「おい。誰だ。酒飲んでるヤツは?」
後ろのテーブルから、リヴァイ兵長の威圧的な声が聞こえた。
……酒?!
俺は口論半ばのエレンをそのままに、慌てて美咲の側へ行き、強く漂うアルコール臭を確認してから。
フラフラの彼女の肩を抱く。
「す、すみません!注文が他のテーブルと間違っていました!」
店主が謝りに来たのは、そりゃあもう遅ぇくらいの時間で。
美咲はアルコールの力だろうか、いつもは気張っている肩の力が幾分か抜けて、リラックスした様子だった。
表情も何だか柔らかく、和やかに会話を楽しむ姿は、凄ぇ魅力的……つーか、色っぽく見えて。
ほんのり上気した美咲の頬を見て、不意に俺の頭を過ぎ去ったのは。
……食いてぇな、コイツ。
なんつー、身もふたもない感想だった。