第19章 ※特別な休みはお前のせい?
「目が、ね。……変わるの。」
「……目?」
意味が分からず、ただ美咲の言葉を繰り返した俺に、彼女はまた笑みを深くする。
……その笑い方、何となく不愉快だな。
そんな俺の気分を知ってか知らずか、彼女は何かを思い出すようにして、言葉を続けた。
「そぅ、目〜。……なんかねぇ、食われそう。って、言うか……ゾクゾクする、みたいな?」
少しだけ泳いだ瞳。
その先にあるのは記憶、だろうか。
俺が黙り込んだ事がそんなに嬉しいのか、にやにやしながら楽しそうに話す美咲。
彼女は、きっと気付いていない。
ほんのりと頬が上気し、その瞳に、欲が浮かんでいる事を。
それだけで俺の心がザワザワと掻き乱される。
よく、知っている、顔。
だけど、初めて見たような顔。
嬉しそうに、俺の知らない俺を突き付けるその顔が。
美咲が、一番甘くなる時の顔と……
重なった。
……また、だ。
また心が騒ぎ出す。
このところ、不整脈かっつーくらいに落ち着かない俺の心臓が暴れるのは、いつも決まって、美咲の表情が変わる瞬間だ。
「さっきは、違ったもん。」
自慢気に言い放った美咲は、にこにこしながら最後のパンを頬張った。
俺はもう、どうにも抑えきれない衝動を、なんとか逃がそうと髪をガシガシと乱暴に掻き乱す。
あー……
なんかもう、無理みてぇだ。
我慢出来るはず、ねぇよ。
一瞬で脳内会議を終えた俺は、「お前、なぁ……」と言って彼女の方に向き直った。
美咲は嬉しそうに、美味しそうに、最後のパンを水で流し込んでいる。
その手からグラスを奪い取り、そのままベッドに組み敷いた。
「ッえ?!ちょ、……何?」
微笑みから一転、戸惑いを顔いっぱいに浮かべた美咲が、俺の目の前にいる。
……さっきの顔は、反則だ。
その事を突き付けるかのように、耳元で囁く。
「その顔、誘ってんのか?」
「は?? 何言っ……、」
美咲の反論。
その続きを飲み込むように、俺は彼女の唇に噛み付いた。
深く、深く、衝動に任せるように。
脳が痺れるようだ。
彼女の唇は、いつも、甘い。