第17章 ※アイツの約束あの人の秘密
「あぁ、大丈夫だろ。雨だし。工事は遅いはずだ。」
そう言ったジャンは、ぷるぷると頭を振った。
その髪の先から、小さな水滴が飛び散る。
「えー…、って、あんた。」
「ん?」
良く見れば、ハンガーに昨日ジャンが着ていたシャツが掛けてあり、しかも首元には何故か私のタオルまである。
髪は濡れてるし、ズボン一枚だし、ほんのり血色もいい。
そして、ジャンの手にはお水が入ったコップ
そうだよね。
お風呂上がりって、喉乾くもんね。
って、ちょっと待て。
「……何でお風呂入ってんの。」
「はぁ?そりゃ、入るだろ。汗掻いちまったし。」
「じゃなくて!」
何でお風呂に行って戻って来てんの!
ここ、私の部屋なんですけど?!
馴染みすぎてて言いづらいけど、一応、一人部屋の女の!部屋なんですけど!
そう訴えてみたものの、ジャンはしれっとした態度のままだった。
「何今更言ってんだ。風呂上がりくらいでガタガタ言うなよ。もっとスゲェ事してるっつーのに。」
「な、あ、あんた、そのセクハラ発言やめなさいよ!」
「朝から元気だな、お前。」
噛み付くような私の勢いに、溜息を吐いたジャンが、立ち上がって目の前に来る。
突然の行動に腰が引けてしまう。
「な、何よ……」
何だか弱々しい声になってしまった。
……くそぅ、悔しい。
そんな反省をしている私に、クツクツと笑うジャンは言った。
「んな元気ありあまってんなら、今からまたヤるか?」
「はぁ?!」
「文句なんか、言えねぇようにしてやるぞ?」
「ッ……ば、バカ!」
思わず飛んだ私の平手を、ジャンはいとも簡単に躱した。
悔しそうに睨んだ先には、余裕そうな獣の顔。
ここで食って掛かっても、損をするのは私の方だ。
これまでの経験上、こうなってからジャンに勝てた試しがない。
私はぐっと拳を握りしめて、耐えた。
「……いつ、戻るの?」
「ん?もうちょいしてから。」
「……そう。じゃ、お風呂行ってくる。戻るなら、誰にも見られないようにしてね。」
プイ。と顔を背けてジャンから離れた。
精一杯の抵抗だ。
ジャンの存在を無視してドアに向かう私の背中で、クツクツと笑う声が聞こえた。
「りょーかい、美咲さん。」