第14章 ※お前のウソはダレのせい?
「……ジャ、ンっ……ジャンっ!」
ドクン。
一際大きな鼓動が全身を駆け巡る。
煽られた、なんてもんじゃねぇ。
自分で言わせた事なのに、ドキドキして浮かれそうになる自分を、止められない。
一度呼んだら、タガが外れたように涙目で「ジャン」と繰り返し呼んでくれる美咲に、俺は優しくキスを落とす。
お前に今、伝ってる熱は。
お前が今、触れている体温は。
お前が今、感じている相手は。
……全部、俺だ。
呼ばれた自分の名前が嬉しくて、目頭が熱くなるのを堪え、俺はそっと呟いた。
「……美咲。」
ピシャン。
暗い室内に、雷の音が響き、不意に美咲と目が合って。
その瞳がまた、揺れたのを見つけた。
心の中で、呼び掛ける。
なぁ、美咲。
俺、少しは、近づけてるか?
お前の身体に。
お前のココロに。
お前の全てに、俺はちゃんと近付けているんだろうか?
何度も、何度も。
肌が触れ合う激しさとは反対に、優しい声色で名前を呼んだ。
その度に、美咲は応えるように「ジャン」と呼んでくれる。
切れ切れになった声でも、ちゃんと。
呼ばれる幸せに突き動かされるように、時折、顔を寄せてキスを落とす。
「……俺には、権利なんてねぇ、よな……。」
呟いた言葉に、返事はない。
当然かも知れない。
暗闇に慣れた目で美咲を見つめると、潤んだ瞳と視線が絡まって。
言いたくても言えない言葉が、頭に浮かんでは、消えていく。
俺は必死になって、美咲の瞳の奥に、見つかるはずのない、恋のカケラを探し続けていた。
閉じる事さえ出来ない様子の彼女の口から、漏れる吐息が、俺の理性を融かしていく。
美咲の温度に流されそうになる現実から抗うように。
……嘘を吐いた。