第9章 思わぬ誘いと憧れのヒト
けれど、それを抑えるように、心に生まれた期待の芽を、摘み取っていく。
この場にいる相手は、私でもいいし、私じゃなくてもいいんだ。
ハンジさんと出掛けるより、新鮮な気持ちで食事したかった、くらいの理由で、選ばれただけだ。
そうだ、そうに決まってる。
だから、期待なんか、するな。
自分が傷付かないようにしている事なのに、どうしてだろう。
心が、痛い。
今この時間は、あまりにも尊くて、終わって欲しくないと思うのに。
胸が軋んで、どうしようもなかった。
「おい。」
「え?あ、はい。」
「……何を、考えていた?」
静かだけど、強い口調。
さっきまでのトーンより、少しだけ低い、まるで違うもののような響きに、息を飲む。
……ッ!
お、怒らせてしまった。
伝わってくる空気から、そう判断した。
人が話している時に、別の事を考えているなんて、失礼にも程がある。
怒らせて当然だ。
せっかく誘ってもらったのに、どうしよう。
どうしたら、いい?
回らない頭で考えた結論は、凄く単純で。
「す、みませ……」
絞り出した謝罪の言葉は、掠れてしまった。
まともに謝る事も出来ないなんて、本当に、情けない。
どうしていいのか分からずに、ただ、リヴァイ兵長を見つめ返した。ら。
「……違う。言い方が……悪かった。」
リヴァイ兵長の手は綺麗だと言うのに、何回もナプキンで擦っていて、何故だか不思議に見える。
リヴァイ兵長が何を言いたいのか、何を言おうとしているのか、全く分からない。
けれどリヴァイ兵長は私から目を逸らしたり、合わせたりしながら、思案を続けている。
私は、兵舎で見られない兵長の様子に、ぽかんと口を開けて、それを見ていた。
「……謝らせたかったわけじゃない、ただ……」