第1章 ※それは月夜の酔いのせい?
次第に激しくなる口付けは、お互いの息を荒くして。
……酸素が足りなくて頭が回らねぇ。でも、止めたく、ねぇな。
一瞬、ソッと唇を解放した。
試す……、って、どこまでのつもりだ?
コイツは俺とこの先に踏み込んで、本当にいいのか?
先に進むには、どんな興味をそそる罠を仕掛ければいい?
妙案は浮かばない。
これは訓練や試験みたいな正解がある問題でもなんでもねぇ。
ただただ、今だけは、この腕の中の温もりを離したくなくて必死だった俺に、美咲が呟いた。
「サイ、コー……かも?」
ドクン。
耳に飛び込んできた言葉に、驚いてその顔を窺うと、トロリとした表情で、俺を見つめている。
まるでそこに何かしら別の感情があるみたいに感じてしまうのは、きっと、俺のただの願望だ。
「ジャン、もっ……と、して?」
甘えるような、ねだるようなその台詞で、全部吹っ飛んだ。
次へ進むのに躊躇していた俺には、効果的かつ刺激的な一手。つまり、王手だったように思う。
美咲を抱き締める腕を、一旦解放し、邪魔なテーブルを角に追いやってから、再び美咲を引き寄せる。
月明かりしかない、薄暗い部屋。
決して綺麗とは言えない、安宿の一室。
俺はまだ自分の置かれている状況に気付いていない美咲を、出来るだけ怖がらせないよう、ソッと覆い被さった。