第9章 思わぬ誘いと憧れのヒト
「お……お酒、ですか?」
口から出たのは、素直な疑問だった。
だって私はまだ、お酒が飲める歳ではないから。
リヴァイ兵長は、まるで不思議なモノでも見ているような私に、少ない量が入ったワインを手渡した。
「ただ、お前とプライベートで飯を食いに来たかったのに、そんなガチガチでいられたら、俺まで緊張しちまいそうだ。アルコール度数は低いし、今夜は目を瞑るから心配するな。」
……そんな攻撃、ズルい。
そんな伺うような顔で、そんな甘い言葉を貰ったら。
頷くしか、ないじゃないか。
「……はい…。」
消え入りそうな声でグラスを持った私に、リヴァイ兵長は目を細くした。
良かった。と言うように。
カチン。
乾杯をして。
一気に、人生2回目のお酒を飲んだのはいいけど、ワインは渋くて、あまり美味しさが分からなかった。
けど、少し時間を置くと、緊張もほぐれてきて。
「ほう。一人っ子か。」
「はい。リヴァイ兵長も一人っ子だったんですね。」
「まぁ俺の方は、曖昧だがな。」
……お店に入ってから、一時間。
少しだけ、リヴァイ兵長と話すのにも慣れてきた。
最初は、とんでもないと思っていたのに。
お酒の力も、もちろんあったけど、飲んだのは最初の1杯だけで。
リヴァイ兵長の、意外と話すその会話力が、私との間の壁を、見事に破ってくれたのだ。
プライベートに関しては、お互いに知らない事だらけだから、何を話しても新鮮で。
何より、憧れのリヴァイ兵長から、個人的な話しを聞ける事がうれしくて。
「そう言えば、兵長はおいくつなんですか?」
「……ガキん頃の記憶はあまりねぇが、多分30くらいだな。お前から見たら、そこらのオヤジもいいところだ。」
「そんな!」
まさか、と言うように、顔の前で手を振る。
その様子がおかしいらしく、兵長は珍しいものでも見るかのように、少しだけ笑い、ワインを飲み干した。
「気を使わせて悪い。」
「いえ!全然!お世話とかじゃないですから!」
「……フッ。お前は面白いな。」
そう言って、リヴァイ兵長は、今度は紅茶を頼む。
この間と同じように、喉の動きに見惚れてしまいそうになるのを、ずっと我慢していて。
私は、手に取っていた紅茶を、飲み干した。