第3章 天才と球技大会
大会が終わるころには、夕焼けが辺りを真っ赤に染めていた。
後片付けのためにボールの入ったバケツを持って歩いていると、後ろの方から誰かが小走りで近寄ってきた。
「ねえ」と声をかけられたので、立ち止まって振り返った。
桃浜が金銀のバットを3,4本、両手で抱えて立っていた。
「伊豆くん、何位だった?」
夕日を背にして、桃浜はオレに笑いかけた。
Tシャツと半ズボンから伸びる白い手足が、驚くほど赤く光っていた。
あ、桃浜って、胸大きいんだな、とオレは気づいた。
抱えられたバットの上に、胸のふくらみが窮屈そうに乗っかっていた。
「1位だった。MVPも取った」
胸を見たことは気づかれないように、目を少し逸らしながらオレは言った。
どうせ尋ねられると思ったので、MVP…最優秀選手に選ばれたことも伝えておいた。
「そうなんだ。私のチームもねえ、1位だったよ。MVPも私なの」
「そうか。よかったな」
男子と女子じゃ直接対決することにはならない。1位同士なら申し分ないだろう、今日は桃浜に「伊豆くんは天才だから」なんて言われずに済むかな、と思った。
「7回裏、伊豆くん、ホームラン打ったでしょ。フェンス越えの」
「ん?ああ…見てたのか」
「私もね、7回に打ったけど、ツーベースだったの」
「そうか」
まあ、見てたけど。見てたことを言うべきかどうかよく分からなかった。
「ここでも負けちゃった。伊豆くんは天才なんだねえ」
桃浜は少し目を伏せながら微笑んで、歩き出した。
ううん、どうしてもオレは桃浜からそれを言われる運命なのか。
少し釈然としない思いを抱えたまま、オレも桃浜の後に続いて歩いた。