第3章 天才と球技大会
ちょっと風の涼しいある日、球技大会が催された。男子は野球・バスケ・サッカーのいずれかを選択してトーナメントで戦う。オレは赤坂と一緒に野球を選んだ。
試合の最中にフと横のグラウンドを覗くと、女子がソフトボールをしていた。ちょうど桃浜が打つ所だった。
桃浜、バットなんか振れるのかよ。と、つい思ってしまった。
桃浜は女子の中でも小柄な方なのだ。
ピッチャーがボールを投げる。
桃浜の身体にギュッと力が入るのが分かった。
大きく捻られる腰。強く踏ん張られた脚。美しい弧を描く腕。
カキン と鋭い金属音がした。
綺麗に飛んだボールはフェンス近くでバウンドした。
桃浜が手足をギュンギュン振って走る。
「ヤッターすごーい、ツーベースヒットだよー!」
桃浜の友だちらしい女がベンチから声を張り上げた。二塁ベース上で、桃浜はVサインして友だちに笑いかけていた。
「…おい…伊豆!次お前だって!」
赤坂の声でハッとした。オレの打順が来ていた。
「ああ、今行くよ。赤坂」
「ボーッとするなよ。デカいの頼むぞ、天才!」
バットを構えて打席に入った。
オレの目は確かにピッチャーの方を向いていた。だが頭の中ではさっきの桃浜の姿ばかりが、繰りかえし繰りかえし再生されていた。
桃浜のフォーム、キレイだったな。
そんなことを考えながら、ピッチャーの投げた球へ向かってバットを振った。
カキィン
大きな音だった。
球を追いかけるのを諦めた外野手が立ち尽くしている。
打球がフェンスを越えて場外ホームランになったことを確認したオレは、ゆっくりとベースを1周した。