第1章 三角形 case1
人間関係に疎そうな木兎先輩が気付くんだ。
梟谷の人達はすでに変に思っている事だろう。
どうすれば良いかも分からず、ぼーっとしながら片付けをしていた。
「小熊さん、こっちはもう大丈夫だから洗濯物見に行って貰える?」
頭では別の事を考えていた所為か、突然の声に驚いて背筋を伸ばす。
先輩マネージャーからの指示だった。
「あ、は、はいっ!いってきます!」
慌てて返事をすると、食堂から出て洗濯機のある場所に走って向かう。
「…洗剤は、これ、で、良いの?」
「…良いんじゃない?」
その場所に辿り着くと、声が聞こえた。
音駒の一年生だ。
そっと近付いて覗くと手に持っていたのは漂白剤。
「それ、入れたらシャツが色無くなっちゃうよ。」
まさか、コントのような間違いをしているとは思わず、つい笑いながら指摘した。
驚いて振り返る男の子達。
「…梟谷の。」
私を確認して指を差してきた。
名前までは覚えきれてないみたいだ。
「マネージャーの小熊さくらです。洗濯なら私やるから貸して貰える?」
自己紹介をしながら漂白剤を奪い取り、普通の洗剤と柔軟剤を投入して洗濯機を回した。
そういえば、音駒にはマネージャーがいない。
誰に頼めば良いかも分からず、こうして一年生が大変な思いをする訳か。
この人達、食堂で見なかった気がするし、ご飯もまだなんじゃないかと心配になった。
「ねぇ、もうすぐ食堂閉まっちゃうよ。ご飯まだなら急いだ方が…。」
良い、と言い切る前に二人は慌てて食堂の方に走っていた。
去っていく人達を見ながら思った。
こんな事をしていたら、折角の練習試合って機会なのにベストな状態は作れない。
この、合宿中だけでも音駒の方を気に掛けるようにしよう。
雑用は一年生がやっているようだったし、他校の、しかも年上のマネージャーには頼みづらいだろう。
だったら、私から声を掛けていけば良い。
合宿中に他校を気に掛けるのもマネ業の一つだ。
ベストな状態でやって貰わないとこちらの練習にもならない。
自然に京ちゃんから距離を取れる言い訳を思い付いた瞬間だった。