第7章 三角形 case4
この話を続けるのは不毛だ。
私はモテないって言っても、及川さんは否定するように私を褒めて返してくるだけだろう。
そんな会話は楽しく無い。
話を変えたくても、生憎と中学が同じ以外に共通点の無い及川さんに話せるような事は何も無い。
専門課程の多い授業の話なんかつまらないだろうし、どうしたものか。
「あ、そういえば。今年もうち、北一の後輩何人か入って来たんだ」
「そうなんですか。今年の新入生って事は私の1つ下の子ですよね?」
及川さんの方から、話が続かないのに気付いて話題を変えてきた。
それも、私だって分かる中学時代の話にしてくれている。
と、言っても学年違いの子の事だから有名な子の事くらいしか知らないけど。
「1コ下だと、影山くんとかですか?」
それでも、話を合わせたつもりだった。
確か、及川さんと同じポジション、セッターだった子の筈だ。
王様と呼ばれるくらい強い子らしい。
ただ、これはNGワードだったようで。
「彼女の口からその名前は聞きたく無いんだけど。それに、アイツはいないよ。烏野って別のとこ行ったし」
及川さんが不貞腐れてしまった。
別に、後輩といっても知り合いではないし、今現在どうしているか気になる訳でも無い。
でも、烏野の名前には聞き覚えがあって。
「烏野って、インハイでうちが負けたトコですよね?」
その頃は、二口に興味なんか無かったから試合を見に行った訳じゃ無い。
それでも、結果くらいは知っている。
だから、少しだけ興味が湧いてしまって話を続けた。
「そう、そこ。でも、うちは勝ったけどね」
及川さんも話を続ける気はあるようだ。
さっきまでの不貞腐れた感じはどこへやら、ピースサインを作って自慢げな顔をしている。
「あれ?でも、今年もインハイは白鳥沢じゃなかったですか?」
興味は無くても、全国に行った学校くらい知っている。
県民あるあるだ。
「そうなんだよっ!あのウシワカ、ほんっと腹立つ!」
さっきとは、違うNGを踏み抜いたみたいだ。
今度は、怒りを露わにして手を握り締めている。
「…ま、でも春高行くのは俺達だし。さくらちゃんは、二口に春高行って欲しいだろうけど、残念。俺達が叩き潰すから、予選、絶対に見に来てね」
それでも、すぐに気を取り直して、次を語る姿は素直に尊敬出来たし、格好良いとも思った。