第1章 三角形 case1
そんなに前から、という事は鈍い私に随分と苦労させられただろうな。
兄妹みたいな幼馴染み、なんて完全に恋愛対象から外れてるし、沢山傷付けただろうな。
「周りが、恋愛に興味を持ち始めた頃って、そういう話ばかりになる時期があるだろ?」
京ちゃんの話は続いているようで、黙って聞いておこうと顔を見る。
「いつも、そんな話は興味無くて流してたけど。誰かが、我儘言われても彼女だから許せる、みたいな事を言ってて。
その時、さくらの顔が浮かんだ。さくらが、いくら我儘言っても許せるのは、妹みたいな存在だからじゃないって、それで分かったんだよ。」
そこで言葉が途切れた。
京ちゃんはソファーから立ち上がり、少し屈んで私に向かって手を伸ばしてくる。
テーブルの幅なんて、京ちゃんの長い腕は簡単に越えて私の髪に触れた。
本当に大切な物を触るように優しく髪を撫でる。
「幼馴染みって、何時でも触れる位置と立場。ずっと、この関係を壊したくなかった。
今も、こんな話してるのにさくらは無防備過ぎるよ。」
突然、頭に痛みが走った。
髪を掴まれている。
「他の人と付き合ったら、壊れるよね。…優しい、頼れる兄を演じて護ってきた関係が終わる。」
痛いのは私なのに、京ちゃんの方が泣きそうな顔をしていた。