第1章 三角形 case1
数分後、玄関のチャイムが鳴る。
誰かは分かっているけど、出迎える気持ちの余裕がなかった。
ソファーの背凭れに寄り掛かって音を無視する。
せめて電話のままだったら聞けたかも知れないのに、目の前に来たら絶対に無理だ。
何回かチャイムの音が鳴った後、携帯にメールが入る。
【直接話がしたいから開けて。出てくるまで待つから】
京ちゃんからだった。
いつもの心配して来てくれているのとは違う。
話がしたい、なんて言われた事なかった。
もう、分かってるんだ。
私が、わざわざ電話した理由を。
このままだと、本当に私が出るまで扉の外で待つんだろうな。
まだ夜は寒い季節だし、風邪でもひかれたら大変。
だって、週末にはゴールデンウィーク。
音駒は来なくても、うちの合宿はあるし、練習もある。
インハイ前の大切な合宿で、実力を発揮出来なかったらセッターの交代も有り得る。
それだけは、絶対に駄目だ。
諦めて立ち上がる。
玄関まで、そんなに遠くはないのに足取りが重くて、長い時間を掛けて扉を開けに行った。