第1章 三角形 case1
長い沈黙。
耳鳴りがするくらい、静かに感じる。
ただ、電話が繋がっているだけの状態だ。
やっぱり、簡単には逃げ癖は治りそうもない。
『…今日、オバサンは?』
私の癖を知っている京ちゃんの方から、沈黙を破ってくれた。
その質問の意図は分からないけど。
「…夜勤明けで明日休みだから出掛けてるよ。さっきまで寝てたみたいだけど。
一緒に晩御飯くらい食べてくれれば良いのに、どうせ帰って来ないし。自分にばっかり時間使うんだから。」
私が本題を出せないのを見抜いての事だろうから、話を合わせる。
回答と一緒に愚痴が漏れた。
『またいないの、あの人。どうせ、いつも通り金だけ置いて晩御飯は勝手にしてね、でしょ。』
人の親を‘あの人’呼ばわりで、呆れたように言ってくるけど合っているんだから仕方がないし、言い返せなかった。
テーブルの上にお金が置いてあるのが見える。
『そっち、行くよ。』
一人になる私を心配して、度々うちに来る京ちゃん。
いつも通りなら甘えて来て貰うけど、今は状態が違う。
「え。いいよ、京ちゃん部活もあったし疲れてるでしょ?」
顔を合わせて話をする勇気がない。
断ろうとしたけど、通話はすでに切られていた。