第1章 三角形 case1
「…あ、うちココなので。有難うございました。」
玄関の前で止まると繋いでいた手を離す。
消えていく体温に少し淋しさを感じたのは、孤独を嫌う自分の性質の所為だろう。
「何も分かってない無神経な私だったら、お茶でもって誘うんですけどね。」
ほんの数時間前、黒尾さんの気持ちも知らない状態なら、間違いなく言っただろう言葉を苦し紛れな笑顔で口に出した。
こっちまで出てきて貰って一緒に食事したくらいで、大したお構いもせずに解散、なんてやっぱり悪い気がする。
「気にすんな、って。正式にオツキアイしたら幾らでも来れるだろ。」
大きな手の平が近付いてきて、頭をぐしゃぐしゃと撫でられる。
黒尾さんはさっきと同じ、いやらしい笑顔をしていた。
いや、この笑顔が素の笑ってる顔なのかな。
企み笑顔にしか見えないんだけど。
「じゃ、またな。」
頭から手が離れると別れの挨拶をして帰っていく。
「はい。…また。」
次回の約束の言葉を返していいか迷って、聞こえるか分からない程に小さく言いながら、その背を見送った。