第1章 三角形 case1
顔を見たままじゃ、答えられる気がしなくて下を向く。
「…考えさせて下さい。ちゃんと、答えは出しますから。」
声は震えてしまったけど、告白の返事がやっと出来た。
「…了解。返事、待ってるな?
ただ、逃げるのはナシ、だぞ?」
手が肩から離れて頭を撫でられる。
もう怖い雰囲気は無くなってて、顔を見上げると黒尾さんは笑っていた。
さっきから、真剣な顔だったり、困らせたり、怒らせたり…。
数十分の間なのに、色々な顔をさせていた。
笑顔が久々な気さえするぐらい、色々な表情を見た。
考えると京ちゃん以外の男子とこんなに一緒にいるのも、色んな顔を見るのも初めてだ。
きっと、さっきのも。
急かしたんじゃなくて、私が返事をしきれていないのを気にしてるの、分かってて。
言うチャンスをくれただけ、だったんだろうな。
人の事を見透かして、恩着せにならないように手を差し伸べる。
黒尾さんの優しさを知った。
「帰りましょうか。…送って下さい。荷物もお願いします。」
初めて、京ちゃん以外の人に甘えた気がする。
優しいこの人になら、甘えて良いんだって思えて。
全ての事が、なんだか新鮮で、この人といると新しい世界への扉が開く気がした。