第1章 三角形 case1
言い訳する事も出来ない。
沈黙が重い。
これなら、京ちゃんと黒尾さんの水面下での戦いを見守っていた、さっきの方がマシだった。
まぁ、その戦いも中身を知ってしまってたら、今と違う緊張感があっただろうけど。
暫く何も言えずに黙っていると舌打ちの音が聞こえた。
やっと掴まれていた手が離される。
「…ごめんなさい、は?」
「…え?」
確かにいきなり走ったし、心配掛けたんだろうから謝るのは当然だ。
だけど、子どもが悪い事をした時みたいに強要されるとは思ってもいなくて。
口から出た言葉はただの疑問を表す一つの音だけ。
「小熊、悪いと思い浮かぶ事はねぇの?」
いきなり走って逃げようとした事、怪我の心配までさせた事。
そんなの、分かってるけど声が出ない。
「小熊さ、何時もそうなの?嫌な事があったら逃げて黙るのか?
…ココに助けてくれる京ちゃんはいねーぞ。お前がそうなってんの、アイツの所為だろ。」
「京ちゃんは関係ないっ!…です。」
咄嗟に反応出来たのは一つの言葉、名前にだけ。
つい、声が強く出てしまって、後から手遅れな敬語を付け足した。