第1章 三角形 case1
演技っぽい恭しさを出したお辞儀をされて。
目の前に手が差し出される。
「お姫様のお守り役をお譲り頂いてます。
…空いた手は、こちらにどうぞ。」
どうやら、手を繋ごうと言われているらしい。
なんで告白保留した相手と手を繋ぐと思っているのか、さっぱり分からなくて首を傾げる。
「お怪我をされてますから、少しでもお姫様の支えになれたらと思いまして。」
どこまで酷い怪我人だと思ってるんだ。
そんなに酷かったら、ご飯なんか食べに来てる場合じゃないでしょ。
まぁ、顔が笑ってるから冗談で言ってるのは分かるけど、イラッとした。
手を取る事はなく、断りを示して首を振った。
「一人で歩けます。大体、いつまでその設定続ける気ですか。」
苛立ちを隠せず早口で言葉を口にした。
怪我人扱いされてる事が、それをネタに手を繋ごうと言われた事が、そんなに嫌な訳じゃない。
これは八つ当たりだ。
さっきの話も中途半端で、消化しきれていない。
それなのに普通の、普段と変わらない態度で接してくれる優しさが辛い。
会話をすると、自己嫌悪の塊みたいな発言してしまいそうで、困らせてしまいそうで。
先に黙って歩きだした。