第1章 三角形 case1
数分が経って、やっと涙が止まると体から離れるようにお腹を押した。
すぐに腕の力が緩んで息苦しい世界から解放される。
周りには痴話喧嘩と勘違いして見物していたらしき人が何人かいて、途端に恥ずかしくなった。
「ごめんなさい。」
「え?俺フラれた?」
謝ったのは私の所為で、黒尾さんまで恥ずかしい目に合わせてしまった事。
お断りの意味ではない。
多分、分かってわざと返してきている。
証拠に表情には悲観とか感じられない。
寧ろ、私が慌てて否定する様を楽しみにしているのか笑っている。
「…そう取ったならそれで良いですけど。」
思い通りに動くのは悔しくて、逆に意地悪く返してみた。
顔をふいっと逸らして足元の鞄を拾う。
「私、帰りますね。」
紐を肩に掛けて持とうとするが、上手く掛からなかった。
黒尾さんが紐を掴んでいる。
相手は京ちゃんだったけど、前にも似たパターンあったような気がする。
自分の荷物すら持てない程の怪我はしてないけど。
力で敵う訳はなく、簡単に鞄は私の手から離れて、黒尾さんの肩に担がれた。