第1章 三角形 case1
言葉で示されたからには答えは出さなきゃいけない。
急いでないと言われても、保留なら保留なりに答えないと。
「…黒尾さん、私…京ちゃんの事、好きですよ。お兄さんみたいで、優しくて厳しくて、私の事を分かってくれてる。本当に大好きなんです。慕ってる、の方が正しいかも知れませんが。」
こんな時に他の男に対する感情を語ってどうする。
でも、言わなきゃいけない気がした。
黒尾さんも、黙って聞いてくれているから、続ける事にする。
「黒尾さんの事も好きです。…合宿の時、私がいなくなったのに気付いてくれたから。連絡取れるの、黒尾さんしかいなかったからだろうけど、心配して迎えに来てくれたの、純粋に嬉しかったんです。その程度で人に懐くような女なんです、私。」
言葉は選んでいられなかった。
混乱もあるのか、外にいるのに、人目もあるのに泣きそうになってしまう。
私は残酷だ。
告白をしてきた相手に向かって、子どもが言うような‘好き’の言葉を向けている。
決して‘恋’ではない、ふわふわとした軽い‘好き’。
木兎先輩とか尾長くんとか、先輩マネージャーにも向けてる‘好き’。
「…よく分からないんです。二人とも好きには違いないんです。でも、付き合うとか考えた事もなくて…。」
謝りたかった。
でも‘ごめんなさい’は断りの言葉。
少し考える時間が欲しい私が、言っていい場面ではないと、分かっていたから口に出来なかった。