第1章 三角形 case1
出来るだけ早めに済ませたつもりだったけど。
ファミレスから出ると、京ちゃんの姿が見えない。
居るのは黒尾さんだけで、その足元には私の鞄。
「…お待たせしてすみません。あの、京ちゃんは?」
辺りを見回しながら問い掛ける。
「あー…。用事あって帰るって。」
黒尾さんは私から視線を外して答えた。
嘘をついている気がする。
まず、怪我してる私を置いていくような京ちゃんじゃない。
黒尾さんの態度もおかしいように見える。
黒尾さんと二人きりに耐えられなくなって帰っちゃったのかな。
黒尾さんを帰したら、また私が怒ると思ったのかな。
まぁ後で連絡すればいい話、なんて呑気な事を考えていた。
どこか、あの気まずい雰囲気を味わわずに済んだ安心感すらある。
「…小熊、俺と付き合わね?」
突然聞こえた言葉は私をフリーズさせるのに十分だった。
いや、よくあるパターンでどっか行くの付き合ってくれ、とかでしょ。
ほら、黒尾さんには好きな人がいるんだし。
まさか、京ちゃんへの嫌がらせに私と付き合おうとか思ってる?
思った事を何か言おうとしてみるも、声が上手く出ない。
パクパクと金魚のように口だけ動かしていた。
「…流石にストレートに言や分かるんだな。ベタに、どっか行きたい所あるんですか?とか言うかと思ってたが。」
はい、言おうと思ってました。
そんな言葉すらも口からは出てこない。
この展開は本物の告白だ。
じゃ、黒尾さんと京ちゃんが好きな人って私なのか、と、頑張って頭を働かせようとした。