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【HQ】サンカク。

第1章 三角形 case1


‐黒尾side‐

普段は無表情で読みづらい奴が、ここまで饒舌に嫌悪を表すなんて、思ってもいなかった事だ。
それだけ彼女が大切で、傷付けるヤツを許せない訳だな。

「…さくらは、自称友人に金だけ利用されても、自分の価値はそれしかない、と言ってました。
騙されていても、自分が一緒にいてくれた時間を買ったんだから、と笑ってるんです。」

やっと赤葦の口が止まる。
その顔は辛そうで、彼女を助ける事が出来ない自分を責めているようだった。

腹が立った。

小熊の、その思い込みを増長させてるのは赤葦本人だ。

「なら、尚更アイツに払わせちゃ駄目だろ。」

極力冷静に、平坦な声で言った。

無償で誰より愛してやれる癖に。

喉の奥まで出かかった言葉を飲み込む。

俺じゃ距離もあるし、出会ってからの時間も短い。
どうやっても敵う訳がないのに。
これ以上、敵に塩を送ってやってたまるか。

「…さくらの荷物、お願いします。今日‘は’黒尾さんに譲りますよ。」

赤葦の、今まで見たこともないような表情。
口の端を上げた笑顔のような、何か覚悟を決めた顔。

言わなくても、コイツには伝わってしまったようだった。

「…俺、兄妹のままでいいって言いましたけど半分は嘘です。
勿論、変わらないまま傍にいられれば良いって本心もありますけど。
それ、さくらに好きな人が出来たら壊れるでしょう?」

話すだけ話したら、俺が何を言おうと帰るつもりなのか、自分の鞄だけを肩に担いでいる。

「俺はいつでも会えるんで。…失礼します。」

‘負けない’と宣言された気がした。

「やべ。火ぃつけちまった。」

後悔先に立たず。
呟いても相手はすでにさっさと歩いて行ってしまっていた。
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