第1章 三角形 case1
‐黒尾side‐
「…あれ、何時もあぁなの?」
ファミレスから出てすぐの場所で立ち止まると、同じように止まった隣の男に問い掛ける。
「…さくらが鈍いのは何時もの事ですよ。」
それじゃねーよ、と突っ込む前にそいつの口がまた開く。
「…さっきのは、家庭環境がそうさせてるんだと思います。」
質問の意図は分かっていたようで、わざと誤魔化す為に違う回答をしたらしい。
俺が引かないのに気付いて白状した、という所か。
「小熊ん家、複雑なワケ?」
この前、電話で話した母親は明るいし、そんな感じはしなかった。
「年齢が一桁の頃から、家の中でずっと独りって黒尾さんに想像出来ます?
何時も独りで食事して、夜寝る時も、朝起きても、挨拶する相手すらいない。
さくら、金には本当に困ってませんよ。仕事ばかりして、金だけ与えれば子どもを放置して構わない家なようで。その分、愛情には飢えてますが。
だから金で誰かの気を引こうとするんです。」
淡々と語る声が、あまりにも低くて、ぞっとした。