第1章 三角形 case1
聞いた所で答える人とは思っていない。
「…さぁなぁ?」
やっぱり、誤魔化された。
でも、黒尾さん、今は唇の端を上げてわざとらしく笑ってるけど。
さっき一瞬だけ、固まった感じがしたような…。
変な事を聞いてしまったのか、と考え込んでまた黙り込む。
「…よく、ライバルって言葉をシュクテキ、とかコイガタキ、って書くよな。」
無言の世界を壊して黒尾さんが、紙ナプキンに、アンケート用に備え付けられた鉛筆で二つの熟語を書いた。
多分、さっきの質問の答えだ。
一度は誤魔化した癖に、答えようとしているのは私があまりにも鈍かったからだろうか。
二人は同じ人が好きなんだと、たった今気付いた。
‘宿敵’と‘恋敵’、二つの並んだ漢字を眺めてやっと気付いた。
私達を付き合わせようとしていた意図は京ちゃんが邪魔だから。
恋敵を減らしたかったんだ。
「小熊は、どっちのライバルだと思う?」
どちらかを選べ、と言うように鉛筆を私に差し出していた。