第7章 三角形 case4
店に辿り着くと、自然と手が離される。
私から離れた手は、椅子の背を掴んで軽く引いた。
そのまま座るのかと思えば、席を手のひらで示している。
座って、の合図だ。
女の子はお姫様扱いって、モテテクだよね、コレ。
姫扱いが嫌で、あんなにも口が悪い男に惹かれてる私に効果があると思ってるのかな。
ここで、わざわざ突っ込んで時間を使っても仕方がないから素直に従う事にした。
着席してからも、メニューは私が見やすいように向けてくれたり、注文は率先してやってくれたり。
至れり尽くせりな状況は、下心が無いと分かっているから不思議な気分だ。
「…で、聞きたい事って何かな?」
中断した話も、私がしやすいように聞いてくれる気遣いまである。
ただ、笑顔はさっきと同じく冷たい気がした。
聞くのが怖い質問でもないのに、声が出てこない。
「聞きたい事ってより、言いたい事、だったかな?」
言葉を言い換えられても、それにイエスノーの反応をする事すら出来なかった。
「俺が当ててあげようか?何を言いたかったのか。
さくらちゃんの好きな人って、さっきの二口でしょ?」
話したい内容はそれじゃない。
首を振ろうとしたけど、好きな人が間違っていると取られかねない。
どうすれば良いか分からず困っていると、タイミング良くお茶が運ばれてきて、緊張した空気が少しだけ緩んだ。