第5章 ※三角形 case3※
かなり長い時間、ただ見つめ合っていたように思う。
今更、口先だけで何かを言っても信じては貰えないから、せめて失言をしないように唇を固く結んだ。
「…返事が保留なのは、さ…。」
状態を動かすのは、溜め息の後に聞こえてきた、諦め混じりの秋紀の声。
「俺が浮気しねぇっての、信じられないだけじゃ、ないんだな…。」
それも、ある。
でも、一番大きな問題は…。
秋紀以外にも、私の事を愛してくれる存在が居るかもしれない事。
頷いて示す、肯定。
ここまで傷付けたのだから、正直に答えるのが、私に出来る事。
「ごめん。私、結婚したかった。結婚に憧れてた。
デカくて可愛くないから、秋紀と別れたら、一生独身だって決め付けてた。」
なのに…。
私に惚れたって言ってくれる人が。
真っ直ぐ向かってきてくれる男が。
現れてしまった。
正直に自分の気持ちを全部話そうと思ったのに、言葉が繋げない。
秋紀が泣いてしまいそうだから、これ以上追い詰めるなんて出来なくて口を閉じた。
謝って、楽になるなんて事は無かった。
相手を苦しませたら、自分ももっと苦しくなる。
ポロりと涙が零れて。
つられたみたいに秋紀の瞳からも雫が落ちて。
2人揃って、声は出さずに泣き出した。