第5章 ※三角形 case3※
笑っている間、笑うな、って秋紀が怒ったような声を出していたけど。
眼だけは、安心したように私を見ていた。
やっと笑いが止まると、それを確認した秋紀が立ち上がる。
「帰ろっか?」
片手を私に差し出して、立たせてくれた。
指輪は、返事をしていない現状で着ける訳にはいかず、ポケットにしまう。
帰る最中も、手はずっと繋がれたまま。
一連の出来事が、まるで無かったようで。
普通の、恋人同士で過ごす一時。
だけど、何にでも終わりはやってくるものだ。
話をしなきゃいけなくなる自宅まで、後数分。
慣れた道を歩いているのに緊張して、手が震えてきた。
それは触れている秋紀にすぐ気付かれて、震えを止めるように握る力が強まる。
「さくらの話聞いても、さっきの撤回とか、する気ねぇから。安心して、話して?」
聞く覚悟を決めているような、落ち着いた声。
浮気に気付いていても、私の口から話されると、現実味を帯びて、秋紀が辛くなるだろう。
それは、私が何回も味わわされた感覚。
話して謝って、楽になるのは、私自身の方だって、きっと秋紀は分かっている。
だからこそ、私が楽になる機会を与えようとしてくれている。
それに甘えて、楽になる為に話をする覚悟を決めた。